2026年3月
杉木立に立ちこめる、春浅き霧
三月のまだ肌寒い朝、杉林の奥から立ちのぼる霧が渓流の水面を覆っていた。冬の名残を纏った空気の中、木々の隙間からわずかに差し込む光が、霧の粒子を淡く照らし出す。足音を殺して歩くと、遠くでウグイスの初音が聞こえた気がした。
杉の幹に触れると、冷たさの奥にわずかな湿り気があり、根元では小さな新芽がすでに顔を出し始めている。まだ本格的な春には早いけれど、渓谷はすでに次の季節への支度を静かに進めているようだった。
霧が晴れる頃、渓流の音が急に大きく聞こえるようになった。それはまるで、眠っていた谷全体が一斉に目を覚ましたかのような、そんな瞬間だった。